頭頚部周辺の手術

耳下腺腫瘍

01耳下腺腫瘍とは

唾液腺は唾液を作る臓器ですが、耳下腺、顎下腺、舌下腺がそれぞれ左右に1対ずつあり、その他に小唾液腺も口腔内などに分布します。耳下腺は左右の耳の前から耳の下にかけて左右一対ある臓器で、脂肪と似た色をしており、薄い白色の被膜に包まれます。いわゆるおたふく風邪(ムンプスウイルスの感染)の際に腫れる部分です。唾液を分泌するのが役割ですので、ステノン管と言われる管が口腔内に開いております。

この臓器の最大の解剖学的な特徴としては、その腺の中を顔の筋肉を動かす指令を伝える顔面神経の枝が5、6本以上に分かれて通ることです。そのことがこの臓器の手術を困難にしています。耳下腺には良性の腫瘍(約80%)も悪性の腫瘍(約20%)もありますが、良性・悪性あわせて30種類以上にも及ぶ病理組織型の腫瘍が発生します。それぞれの組織型によって腫瘍の性質や治療方法が異なるため注意が必要です。良性腫瘍の中でも最多を占める多型腺腫は放置した場合に際限なく増大するだけでなく、悪性化することも少なくないため基本的には手術が勧められます。

次に多いワルチン腫瘍は、通常は悪性化しませんが、容貌上の問題を生じることが多いため(いわゆる“こぶとりじいさん”のような外見になることがあります)、高齢でない場合には手術をお勧めすることが一般的です。

02原因

多くの耳下腺腫瘍の原因は明らかにはなっておりませんが、良性腫瘍の中でもワルチン腫瘍は喫煙の影響が疑われております。また、耳下腺癌では遺伝子変異やニッケルなどの重金属の影響が疑われています。

03症状

良性のものでは、耳下腺の一部にしこりを触れるのが唯一の症状であることが多いのですが、深い部分に生じたものではしこりも触れず、人間ドックなどで画像診断を受けた際にたまたま見つかるものもあります。良性のものは年や月の単位でゆっくり増大するのが普通ですが、急速に増大する場合には悪性のものを疑う理由となります。

悪性の場合には、痛みを伴うことがあるほか、頸部の他の部位に腫れ(リンパ節への転移)が見られたり、顔面神経麻痺を生じていることがあります。

04検査

診断のために重要な検査は、超音波検査、細胞診の2つです。いずれも当院で施行が可能です。超音波は痛みのない簡便な検査ですが、耳下腺腫瘍の状態を見るのには最適です。細胞診は採血に用いるものと同じ細い注射針を刺してごくわずかな細胞を採取することで病理組織型の推定をすることが出来、非常に有用な検査です。より詳細に情報を得るためにMRIもしくはCTを施行する事がありますが、こちらは当院の提携先の画像センターにて撮影して頂けます。

05病理組織型

良性腫瘍の中で最も多いのは多型腺腫です。良性とはいえ、何十年も放置すると増大するだけでなく、悪性化する事が珍しくないため、高齢者を除いては治療の適応となります。続いて多いのがワルチン腫瘍ですが、中高年の男性に多く、時に両側性に生じます。上でも述べたとおり、ワルチン腫瘍は悪性化の可能性が低いため、高齢である場合や、美容的な問題がない場合には、治療を行わず経過観察とすることもあります。悪性腫瘍には20種類余りのものがあり、悪性度の低いものから大変高いものまで様々です。同じ病理型でも悪性度に違いがあり、それによって治療方法も異なります。そのため病理診断が極めて重要となってきます。

06良性腫瘍の治療

良性腫瘍は手術にて摘出することが必要です。全身麻酔下に必ず行います。平均80分程度の手術です。腫瘍の存在部位によって耳下腺の顔面神経より浅い部分のみ摘出するか(浅葉切除)、深い部分のみ摘出するか(深葉切除)、その一部を摘出するか(部分切除)が決まります。深葉の場合には顔面神経を一度浮かしてから腫瘍を切除する必要があることが多く、やや難易度は上がります。特殊なものに深葉よりもさらに深い頸部(副咽頭間隙)に発生する腫瘍もあり、より専門的な手術が必要となります。

良性腫瘍の場合には多くのものは腫瘍の周囲の組織を一部含めた部分切除であっても、より大きく切除する浅葉切除(深葉切除)と再発率に大差はないと考えておりますので、当院ではなるべく負担が軽く、容貌面への影響も少ない部分切除を施行する事がほとんどです。

良性腫瘍であっても、ごくわずかの取り残しが後に再発を来したり、悪性化するものもあるため、丁寧な手術が必要です。良性腫瘍の場合には手術をした後に再発を防ぐための追加の治療(後治療)を要する事は普通ありません。顔から首の皮膚を切開する手術ですので、いかに目立たない様な切開部位を選ぶか、いかに無駄に長い切開を置かないか、いかにきれいに縫合するかを工夫する必要があります。

07悪性腫瘍の治療は

耳下腺癌の治療には、手術、放射線、抗癌剤、その他の薬剤による治療が挙げられます。放射線治療や抗癌剤の効果は高いとは言えないため、手術で摘出することが第1選択となります。頸部リンパ節に転移をきたすことのある腫瘍ですので、転移がすでに生じている場合、もしくは潜在的に転移がある可能性が高いと思われる場合には、耳下腺腫瘍の切除と同時に頸部のリンパ節の郭清(転移を及ぼす恐れのあるリンパ節群を周囲の軟部組織とともに摘出すること)を行うことがあります。また、その腫瘍の病理組織型や進展範囲によって、耳下腺の部分切除から全摘、拡大切除(周囲の臓器を含めた切除)まで変わってきます。

腫瘍の病理組織型やどの程度余裕をもって切除出来たかなどを判断し、手術後に放射線治療や抗癌剤治療を追加するかを判断します。低悪性度のものが余裕をもって摘出されていれば追加治療はしませんが、高悪性度のものなら余裕をもって摘出されていても術後に放射線治療や抗癌剤治療を追加する事が多いです。放射線治療はあまり効果が高くないと先に述べましたが、手術後にあてるのは明らかに効果が高い印象があります。耳下腺の癌の中でも最も予後の悪い病理組織型である唾液腺管癌に関しては、近年一部の症例に男性ホルモンを遮断する薬の投与(抗アンドロゲン療法)や分子標的薬(抗HER-2療法)の効果が見られる事が分かっております。

悪性腫瘍の治療は集学的な治療(手術だけでなく放射線治療や薬物治療との併用)が必要ですので、当院ではお引き受けできません。診察にて悪性腫瘍が疑われた場合には私の信頼する病院・医師に紹介させて頂きます。稀に良性腫瘍の診断で手術した場合でも、摘出した腫瘍の病理組織診断により悪性腫瘍の診断となることがあります。その場合も同様にしっかりとした追加治療の行える病院・医師を責任もって紹介させて頂きます。

08手術後の合併症(特に顔面神経麻痺について)

耳下腺の手術の合併症は様々ありますが、良悪性問わず、手術で最も懸念される合併症は顔面神経麻痺です。顔面神経は必ず耳下腺の中に入ってから多数の神経に枝分かれし、顔面の同じ側の筋肉に分布しますので、顔面神経の本幹(始まりの1本の部分)が切断されれば片側の顔面がまったく動かなくなり、極めて大きな容貌の変化や眼の乾燥、角膜障害、流涙などを来します。本幹でなくとも分岐した後の枝が切断されれば、その枝の支配領域に応じた顔面の筋肉の麻痺が起こります。ただし、良性腫瘍の場合、手術手技にある程度慣れた医師が手術すれば、99%以上は永続性の麻痺を生じる事はありません。一過性の麻痺のほとんどはおよそ半年以内には回復します。一方、悪性腫瘍の場合、術前にすでに麻痺を生じている神経を保存することは出来ません。癌が浸潤していると思われるからです。

以前は悪性腫瘍の場合、麻痺がなくとも顔面神経全体を一緒に切除する事が珍しくありませんでしたが、現在では麻痺が無ければなるべく顔面神経を保存する方針をとる医師が、私を含め多いと思います。当院では最新の顔面神経モニターを導入し、より安全に手術が出来る体制を整えております。

09最後に

耳下腺腫瘍の治療は、正しい診断と確実な手術手技が大事です。組織型により治療方法が異なり、予後にも影響します。顔面神経をなるべく温存し、かつ再発を防ぐためには多くの症例の経験が必要となります。適切な施設で治療を受けることをお勧めいたします。当院の院長は30年以上に亘り専門施設において1,000例以上の耳下腺腫瘍の治療を行ってきております。適切な治療もしくは、アドバイスをさせて頂くことが可能ですのでお問い合わせください。

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